ハンドソーン製法の靴作りの行程をご紹介します
靴作りの道具の方で紹介しましたように、1足の靴を手で作り上げるためには驚くほどたくさんの道具を使います。
それだけたくさんの行程を経て、靴が出来上がるというわけです。
採寸
座っている時は体重がほとんどかからない状態となるため、ZAPATEOでは立位での採寸を行っています。紙の上に立ってもらい、足形を描き写します。必要な箇所をメジャーで測り書き込みます。ここで間違えると大変なことに!!とても神経を使う工程です。
木型選び
靴のデザインによって、つま先の形状やヒールの高さが変わるので、足やデザインに合った木型を選定。 補正だけでは対応できない場合やご希望に応じて木型から作る場合もあります。
木型の補正
選定した木型と採寸した足の寸法を比べ、肉付き・骨の出具合などに合わせて木型に革を貼って補正していく。
デザイン
補正した木型に木型の形にカットした紙を貼りデザインを描いていく。それぞれの足の形と木型に合っているかチェックしながら、履き口の位置や紐の穴の位置など詳細を決めていく。
型紙(パターン)作成
デザインを平面に展開し、型紙を作る。
革の裁断(アッパー)
革の上に型紙を置き、銀ペンで印を付け、靴の表・裏のパーツを裁断
革をすく
次の行程(折り込み)のための下ごしらえ。革の端面処理として、革を折ったり重ねたりした時に、厚みを吸収したり。もたつかないようにするために革を部分的に薄くする作業。道具たちのページで紹介しているすき機や革を切るときに使用する包丁を使います。
折り込み
縫う前の下ごしらえで、薄くすいた革の端を折り返す。玉出しという手法で別の帯状に畳んだ革を覗かせたり、少しカジュアルな感じにしたい時は折らずに切りっぱなしの端面を生かすこともあります。
縫い
靴用の18種というミシンで縫っていきます。革は、布と違って一度穴を開けてしまうと縫い直しが出来ないので、線が歪まないように慎重に縫っていきます。ここでも、とても神経を使います。18種ミシンの全体像は道具たちのページで。
中底の裁断
木型の底面に合わせて、本革の中底を1足ずつ切り出して使います。
中底の下ごしらえ
底付けの方法に応じて溝を掘ったり、薄くすいたりする。
*画像はハンドソーンウエルテッド製法の下ごしらえ
月形(つきがた)・先芯の下ごしらえ
画像中央、半月状の物が先芯(つま先用の芯)、その下が月型(踵部分の芯)
中底と同じ厚い革を凸凹が残らないようガラス板の上で薄くすいていく。この処理が雑だと靴になった時につま先・踵の形がきれいに仕上がらないので、下ごしらえはとても大事な行程です。
先芯・月形をアッパーにセットする
芯材を水に浸し柔らかくしておき水性ボンドを塗り、アッパーの中にセットします。乾くと固まってしまうのでモタモタできない行程です。
つり込み
ワニを使って、一気につり込んでいく。*ハンドソーンウエルテッド製法の場合は、釘で仮留め。
つり込みに使うワニについては道具たちのページで。
縫い糸を作る
ここから底付けの作業です。
縫う長さの麻糸を縒って、チャン(松ヤニ)・ロウを塗り、イノシシのタテガミに絡めつけた毛針を2本作る。(1足分)
すくい縫い
わげさで靴を固定し、すくい針で下穴を開けながら、ウエルト(おしぶち)を縫っていく。
わげさやすくい針については道具たちのページで。
*初めてこの作業をした頃は、余計な力ばかりを使い、全身筋肉痛で起き上がれなくなったほどでした。慣れてからは筋肉痛は減りましたが、それでも力の要る行程です。画像は九分仕上げという方法で、かかと側釘で仕上げているものです。
底付け
木型に沿わせた中底の形状を保つためかかとから土踏まずのエリアにバネを入れ、つり込みで底面にできた段差を埋め衝撃吸収のためのコルク(中物)を入れ、本底をかぶせます。ウエルト(おしぶち)の出っ張り具合を調整しながら、包丁で本底を切回します。
ダシ縫い準備
切回した本底の縁に包丁を入れ、薄く本底を捲る。捲ったところにダシ糸が収まるよう溝を掘る。グッドイヤーウェルト・マッケイ製法の場合、この糸を隠す作業を行わず、本底に直接溝を掘って縫うことが多い。糸を隠すこの一手間で、縫い糸を保護し長持ちさせ、仕上げもきれいに行うことができます。
ダシ縫い
すくい縫い同様、縫う長さの麻糸を縒って、チャン(松ヤニ)・ロウを塗った毛針を2本作り、わげさで靴を固定し、ダシ針で下穴を開け、ウエルト(おしぶち)と本底を縫い合わせていく。すくい縫いよりも材料が硬く、縫い目も細かくなるので、より力と時間を要します。機械縫いとは縫い方が異なるので、より丈夫で長持ちさせることができる方法です。
被せ・切り回し、ヒール積み
縫い終わったら、捲ってあった革で蓋をするように被せ留める。ヒールのはちまき・積み上げ・化粧を順に釘で留めていき、包丁で形を切り出し整える。ヒールの側面に5mm間隔でうっすら線が見えて木でできていると思われることもありますが、5mm厚の革を積層しているためです。
仕上げ準備
上から見たバランスでコバ(ウエルト)の出っぱり具合を包丁で整え→ヤスリかけ→ガラスを使い、側面の凹凸をなくす。
コバを染める
靴の色に合うインクでコバ(ウエルトと本底の側面)を染める。カラゴテかけという、コテを熱してコバにあて、インクを止めコバの凹凸を取り、革を引き締めておく作業を行う。その後ロウを溶かしながら塗っていく。
コテかけ
場所に応じた形の熱したコテで、ロウを溶かしながら強く塗り込んでいく。コテをかけた後に残った、余分なロウを拭き取り、磨き上げていく。最低でも8種類のコテを使用します。コテの形や種類の詳細は道具たちのページで。
底仕上げ
元からある革底の表面仕上げ(ギン)を薄く剥き、細かいサンドペーパーで表面をきれいに均します。その上で、新たなコーティングを施し、クリームで仕上げていきます。
完成
最後に飾りゴテを施し、全体を磨き、紐を通すなど最後の仕上げを行い、完成です!以上が大まかな行程です。一人で全ての行程を行うことで大変時間はかかりますが、デザイン全体のバランスを見ながら、修理を含めきめ細かくご希望に対応することが可能になります。
過去の作例はこちらをご覧ください。